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「 白くなってしまいたくて 」
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そんな言葉とともに雪山へ入っていったのはちょうど1年も前の話。
1年間、働き続けて、働き続けて、結局ここへ戻ってきてしまって。
12月30日。
冬期通行止めの林道から雪の降り続く中、歩き始める。
連日の寝不足と、2カ月間、朝3〜5時まで働き続けたツケでカラダが言うことをきかない。
久々に泣きそうになりながら一歩、また一歩と登っていく。
毎月150時間以上の残業をこなし、
社長や有名タレントが出席するような記者発表の準備に明け暮れ、
イベントで慣れているはずの一発勝負にも、さすがの出席者と内容の重さに、
そのプレッシャーにつぶされそうになる。
毎日が怖くて、怖くて、逃げたくて。
それでも一歩ずつ立ち向かっていくしかなくて。
久々に仕事で人格が変わっていく。
ただ目の前の案件を上手く回すために何をすればよいか、
ただそのことだけに、これまでの経験値と現在のアタマの全てを使って、
それでもまだ足りなくて。不甲斐なくて。
その案件のこと以外、自分が何を考えているのか、
全く分からない状態が本番まで延々と続いていく。
こうやって振り返ってみても、
自分がこの2ヶ月間、何をしていたのか、
ほとんど記憶がなかったりする。
そうやって、自分の持てる全てを注ぎ込んだイベントを迎え、
前日もほぼ徹夜で詰め作業に明け暮れ、
当日は現場で走りまわりながらなんとかこなし、
大きな問題も起きず、参加者の評価も良く、
クライアントからの評価も二重丸で社長からもお礼の言葉をもらったと聞いた時、
足がガクガクと崩れ落ちそうになるような安心感に包まれて。
終わった〜 ・・・って。
感動とかそういうんじゃなくて、
ただただ、あぁ、これでもうこれ以上この案件で苦しまなくて良いんやって。
そのまま22時から別の施工現場に行き、
翌朝も別イベントの立会いをしたりと、それはもう何が何だか分からん状態で。
そんな中もらった辞令。
そんなイベント担当から、メディア担当への異動。
入社から6年、ただひたすらにイベントと展示制作を続けてきて、
得るものも多かった。
もちろん、失うものも多かった。
一発勝負というあまりの緊張感に苛まれ、
私生活でも落ち着かない状態が続くこと。
イベント屋の不規則な生活と酒の多量摂取による不健康と浪費。
コレステロール値はついに異常値へ突入。
気がつけば31歳独身カノジョなし。
全てが仕事のせいではなく、自分のせいももちろんあるにしても、
そんな笑えない状態が少しは落ち着くかもしれない。
が、そんな期待よりも、どちらかというと完全に「燃え尽き症候群」で。
イベンと終了から1週間、明日のジョーのような白く燃え尽きた放心状態が続いている。
だからこそ、雪山にくる必要があって。
動かないカラダにココロで鞭を入れながら、
雪の降り続ける中、なんとか歩き続けること4時間。
中房温泉に到着。
テレビから流れる天気予報。
日本列島に、低気圧がふたつドカン・・・と。
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翌朝、快晴。
だが、
登り始めると吹雪いてくる。
山頂付近まで登り、
稜線にでれば風速20mの
風が吹いているとか。
ベテランの方に聞くと、
明日(1月1日)は
風速30mを越える暴風雪だと。
山小屋から一歩も出れない
どころか、
いつ下山できるかも分からない
とのこと。
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まる1日、もしくはそれ以上、
山小屋に閉じ込められる覚悟で、それでも登るか。
選択の時。
いくらアタマが腐っていても、その判断くらいはつく。
正月を暴風雪の山小屋で過ごすくらいなら、
中房温泉の露天風呂も堪能したことやし、このまま下ろうと。
下山して、実家に帰ろうと。
心配ばかりかけてる親に、顔を見せよう・・・と。
そんな普通のことを、普通にすることが、
来年からの新しい生活のためにはいいんじゃないかと。
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爽やかに冬晴れた山を、
少し軽くなったココロと
下山していく。 |
「岳」という漫画にこんなセリフがあって。
「山に捨てていいものって何だかわかる?」
「答え。ゴミと命以外全部」
抱え切れんくなったら、 山に捨てに来ればいい。
それだけで、また生きていけるかもしれんから。
もう一度、生きなおそうと思えるかもしれんから。
たぶん、大切な人の顔が浮かんだりするから。
1年間ってあっという間って言うけど、
本当にあっという間やったなぁ・・・って。
皆さんも、1年間、本当にお疲れさまでした。
来年も、よろしくお願いします。
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